地獄の底でふたりきり

19.蛇神憑きⅡ

「イヴ様」

 艶やかな声が名を口にするたび、ぞくりと体の奥底から熱が湧き上がってくる。
 主人の名をひたすらに口にする男の目は、熱に浮かされ、明確な情欲の色を現わしていた。

「全て忘れて、ただ欲に溺れてしまえばいい。……あなたは俺だけに、縋っていてくださればいいんです」

 狂ったことを口走るくせに、レボルトの声はどこまでも優しい。
 焦点の定まらない目でぼんやりと自身を見つめている主人を尻目に、レボルトは穏やかな笑みを浮かべながらイヴのドロワーズに指を掛ける。
 下着の中に無遠慮に侵入してきた指に、イヴは堪えるように再度きつく瞼を閉ざした。

「じゃ、あ、ん、……ぅ、言っ……て……!」

 これほどまでに求めておいてなお、レボルトはまだ一度たりとも好意の言葉を漏らしてはいない。
 溢れんばかりの執着で縛り付けてなお、その口は愛を囁いてはいないのだ。
 ただ一言、好きだと言ってくれるだけでいい。
 そうすれば、何の憂いもなく陥落することができるのに。

「何を、ですか?」

「ぁ、何っ、て、ひっ、ぐ……っ、ぁ」

 こぼれ落ちた涙を舌で舐めとったレボルトは、依然知らぬふりを貫き通している。
 花弁をなぞり、壊れ物でも扱うかのごとくゆっくりと指を一本イヴの中へと沈め込ませていく。
 自分の中に異物が入り込んでくる感触からなんとか逃れようと、イヴは荒い息を吐きながらシーツを掴み、必死に身を捩った。
 だがそれを許すまいとばかりに、レボルトに腰を掴まれてしまう。

「俺に、何を言って欲しいんですか?」

 イヴの望むものを把握していながら、あくまでレボルトの態度は変わらなかった。
 ただ、平静を装おう口調とは反対に、奥まで指を差し込んだかと思えば、イヴの感じる場所を探り当てようと、レボルトは貪欲に蠢きだす。
 それと同時に耳を甘噛みされ、舌を中へと押し込まれれば、じゅぶじゅぶという生々しい水音が直接イヴを襲った。

「ま、っ……ぁ、あ、う、ごかさ、な、ぁ、い、……っで」

「締め上げているくせに」

「耳、や、ん……ぃ! ……んぁっ!」

 レボルトの堪えるかのような笑い声が、直接脳に注ぎ込まれているかのような錯覚に陥ってしまう。
 ゆっくりと引き抜かれたかと思えば、さらに深く押し込まれる。さっきからずっとその繰り返しだ。
 時折内壁を弄り、イヴが反応を見せればそこを慎重に攻めあげる。

「ああ、ここがいいんですね」

「そんなの言わな、いっ……ぁ!」

「イヴ様も満更ではないでしょう? それに、最初に俺を押し倒したのはイヴ様の方じゃないですか」

「そ、だけど、ほ、んぅ、に、まっ……ぁっ、あっ!」

 びくんと全身に震えが走り、イヴは咄嗟に自身に覆いかぶさっているレボルトに縋っていた。
 男の首に腕を回し、首を折らんばかりの勢いで強くレボルトに抱きつく。
 背を撫でる男の腕に、一瞬飛んでいた意識が徐々に現実に戻ってくるにつれ、自分でも膣に埋め込まれたレボルトの指をきつく締め上げる感触が、はっきりと認識できた。
 先ほどまでの羞恥を思い出せば、どうしてもレボルトの顔を直接見る気にはなれず、イヴはしばしレボルトに抱きついたまま固まった。

「それで?」

 イヴの心境など知らぬとばかりに、そのままの体勢で、ドロワーズの下でしとどに潤いを見せるイヴの秘所に埋め込む指の数を増やしながら、レボルトは問う。

「俺に、何を言って欲しかったんですか?」

 ばくばくと高鳴る心臓を必死に落ち着けようとする主人を弄ぶ蛇に、容赦というものは微塵もないらしかった。
 低い笑い声が耳をかすめる度、ぞくりと背を刺激が駆け抜けていく。

「イヴ様」

「……わかってる、くせに」

「さて、何のことだか」

 秘所の中でばらばらに動く指の感触から逃れようと、イヴはレボルトの肩に歯を立てた。
 下に出る様な言い方をするくせに、レボルトの態度は脅迫的だ。
 ここまでいい様にされるのも、それはそれで癪だった。
 さらに深く歯を食い込ませてやれば、僅かに鉄の味がにじむ。
 口の中に広がる苦味に、イヴは眉をしかめた。
 突然の暴挙に、レボルトは呆気にとられたかの様に小さく瞳を押し上げたが、それも一瞬のこと。これといって応えた様子はなく、ただ不気味に喉の奥を震わせ、黄金を細めるだけだ。
 
「……私ばっかり、……ん、不公平、じゃない……っ」

「不公平?」

「……私ばっかり、必死、で、……馬鹿、みたい、ぁ、じゃない」

「何を今更。実際、あなたは大馬鹿ですよ」

「うる、さ……あ……っ!」

 埋め込まれた指が、イヴを追い詰めようと動きを早めていく。水音に混じり聞こえる吐息混じりの囁きに、イヴは小さく肩を震わせた。

「イヴ様。どうか、俺に何を言わせたいのか、きちんと説明してはくださいませんか?」

 ニタニタと下卑た笑顔を浮かべた男は、わざとらしいまでにへりくだった言い方でイヴに続きを乞うた。

(そんなもの、決まってるじゃない)

 ただ、愛していると言ってくれればいい。
 朦朧とした意識の中、イヴは煌々ときらめく黄金色の目を射抜く。
 「好きと言え」と命じることは、とても簡単だ。
 そしてその命令を、レボルトはきっと拒まない。
 逆らえないと言うくらいだ。レボルトは素直にイヴの望む答えを返すだろう。
 だがそれを、イヴは望まない。
 強要された睦言など聞いても虚しくなるだけだ。
 だからあえて、イヴは直接的な命令をしなかった。
 きちんと、レボルトの本心が聞きたかった。
 かつて嘘吐きだと公言してみせた、この男の本当の心を。

「……わ、わた、しは、レボルトの、正直な、気持ちが、……んぅ! 聞き、たい……のよ!」

 きょとんと、イヴの言葉にレボルトは一瞬子供のような顔を晒す。
 今イヴに淫らな行為を強いている相手がするものとは思えない無邪気な顔で、レボルトは笑っていた。
「……俺の気持ちなんて、単純なものですよ」

「ふっ……! んあっ」

 直後、一層その瞳を細め、レボルトは不意にイヴの中に沈め混んでいた指を思い切り折り曲げて見せた。
 声を漏らすまいと必死にレボルトの首に回した腕に力を込めるが、耐えきれずに嬌声が漏れ出てしまう。
 我ながらなんて声を出しているんだと、イヴは耳まで赤くなっているのを自覚しながらそれをなんとか見られまいと、レボルトの首筋に強く額を押し当た。
 だが、レボルトは動きを止めなかった。
 目を瞑ったことにより、より強く自分の中に埋め込めれたレボルトの指の動きを機敏に察知出来てしまう。  ぐじゅぐじゅ、ずぶずぶと、淫猥な音がイヴの耳を犯す。

「イヴ様」

 名を、呼ばれる。
 それだけで、うねりを強める自身の膣の動きを強く自覚し、この先を期待してしまっている自分に、嫌が応にも気付かされた。
 指の動きが早まっていくにつれ、まぶたの裏がちかちかと白い光を映し出す。

「あっ、あっ、あ、あ、あっ、ひっ、んっ、にゅ、ん、あぅ、あ、はぁ、んん……っ!」

「ねえ、イヴ様。……俺は、あなたのすべてが欲しい。その声も、体も、熱も、そして心も。全て、俺に捧げて仕舞えばいい」

「ふぁ……っ!!」

 終わりは存外、早く訪れた。
 ぐりぐりと、感じる場所を責め立てられると同時に囁かれた言葉に、イヴは呆気なく二度目の限界を迎えた。
 つうと、指を引き抜かれると同時に、腿の内側を蜜が滴り落ちる。
 見えてはいなくとも、自身の蜜壷が十分に潤っているであろうは理解できた。
 何より、ぽっかりと空いた穴を埋めて欲しいとばかりに、奥がじんじんと疼いている。あやすように髪を梳く指先に、知らず息が荒くなった。
 
「あなたは愚かにも、俺を好きだと言った。初めて会ったあの日から、俺を従僕へと堕としたあの日から、ずっと。何年も、何年も」

 昨日のことのように、レボルトは語る。
 愛撫する腕を一時休め、イヴの背を優しく撫で摩りながら、歌うように朗々と、幼子に聞かせる子守唄のように。

「……でも、あなたは諦めた。自分の運命を呪いながらも、馬鹿らしい罪悪感なんかに負けて、俺を捨てることにした。本当に愚かで。……そんなあなただからこそ、俺は欲しいと思った」

 呆然とした頭ではレボルトが何を言っているのか理解できず、ただ言葉だけがすり抜けていく。

 捨てた? レボルトを、私が?
 つまらない責任感? 諦めた?
 いったい何の話をしているんだ。

「ただ、俺にも慈悲はある。一応、何度か逃げ道は用意して差し上げたんですよ。それを無視して、わざわざ自分から堕ちてきたのはあなたの方だ。愚かで哀れな、俺のイヴ様」

 ぐるぐると視界が回る。
 今自身を抱きしめながら、しきりにキスの雨を降らせる男の言動が、イヴには何一つ理解できなかった。

「それでいいんですよ」

 小首を傾げ、呆然と瞳を射抜く主人に対し、レボルトは口角を吊り上げた。

「何もかも、今となっては瑣末なことです。……そのまま、忘れてしまえばいい」

 一際強く、レボルトの黄金が輝きを増す。
 忘れてはいけない気がする。
 深く深く傷つけてしまったのに、自分だけ全部忘れて、幸せになんてなってはいけない。そんなことは分かっている。
 ――分かっている、はずなのに。

「あなたには俺がいるんです。……それだけで、十分でしょう?」

 クツクツと喉の奥を震わせ、蛇は狡猾に笑う。

「他には何もいらないと、そう命じたのはイヴ様自身ではないですか」

(……そっか)

 だったら、別に忘れてしまっても構わないのかもしれない。

 頷く主人に、下僕は上機嫌に喉元を上下させた。
 頭を撫で、甘やかな毒を注ぎ、すべてを曖昧に溶かし込んでしまう。
 こんなに甘いレボルトを、イヴは知らない。
 頑なにイヴを拒み続けていた偏屈男は、いったいどこへ行ってしまったのだろうか。
 ああ、でも昔のことなんてもうどうでもいい。

「れぼると」

 呼びかければ、あからさまな渇望にまみれた黄金と視線がかち合う。
 ああ、その瞳に私だけを映し出してくれるのならば、永遠に囚われていてくれるのならば、もう何も望みはしない。
全てが欲しいと望むのならば、文字通り全てを捧げよう。この身も心も、何を差し出すことも、惜しくはない。

「すき」

 ドレスの裾に手を差し入れ、ドロワーズを脱がせようとするレボルトに、何度目になるか分からない好意の言葉を投げかける。

「知って、いますよ」

 大人しくされるがままになりながら、イヴはじっと、詰まりながらもおきまりの言葉を吐き捨てる男の所業を眺め続けた。
 散々イヴを乱しながらも、着乱れ一つなかった男が初めて見せる明確な焦り。
 額に汗を浮かべ、どこかせわしなくベルトを緩めるレボルトに、余裕というものはあまりないらしかった。
 開け放たれたシャツの胸元から見える胸板に、自分がおかれた状況を今更ながら思い出し視線を逸らせば、頭上から静かな笑い声が降ってくる。

「イヴ様」

 呼び声に反射的にちらりと視線を向ければ、一瞬の隙をつき唇を奪われた。
 微かに開かれた口を舌で押し開き、思う存分蹂躙していく。
 ぬちゃぬちゃという互いの唾液が混ざり合う生々しい音に、イヴは耳まで赤く染まる。まさに奪われているという表現が的確な、執着的な口付け。
 息を吸おうと唇を開けば、さらに深くまで貪られる。
 咄嗟のことにろくな抵抗もできずにされるがままになっているイヴを尻目に、レボルトは口付けの間に囁きを漏らす。

「あまり、俺を煽らないでください」

「あ、あおってな……んぅうっ!? ぅ、あっ」

 蜜口に、尋常ではない熱量を感じた。
 突然の刺激に、眼前にあったレボルトの肩に指を掛ければ、心底上機嫌そうな忍び笑いがイヴの鼓膜を揺らす。

「は、ぁっ、ん」

 飛びそうになる意識を必死に落ち着かせながら、視線をちらりと下腹部に向ければ、膨張しきったレボルトの怒張がイヴの秘所に充てがわれていた。
 自覚した瞬間、急激に全身が熱を帯び出す。
 恨みがましく見上げた先のレボルトの目は、明確な色情に染め上げられていた。
 そのことに、イヴはほんの少しの優越感を覚えた。
 だが、あからさまな情欲に支配されながら、それでもレボルトは決して中に入れようとはしない。
 擦り付ける事にとどめ、レボルトはイヴが悶えるのを楽しんでいた。
 嗜虐的な笑みを浮かべ、イヴの胸の先端を食み、舌で嬲りながら、何度も入れる事なく秘所に擦り付け続ける。
 その度ぬちゃぬちゃとした、どちらの体液とも分からない、淫猥な水音が互いの耳を犯す。

「ひっ、ぁ……!」

「イヴ様」

 胸の先を含みながら、レボルトが言葉を紡ぎ出す。
 じんじんとした熱が、イヴの頭をおかしくさせる。
 下腹部に触れるモノは熱く、到底無視できない存在感を放ち、イヴの理性を確実に削り落としていく。

 先端がほんの少し中に侵入するだけで、得体の知れない快感が身体を駆け抜ける。
 そのまま奥に押し入って欲しい、滅茶苦茶にして欲しい、そんなイヴの願いを見透かした黄金は、決してそれ以上中に押し入ろうとはしない。
 イヴの顔が物欲し気に歪む度、レボルトの喉が低い笑い声を漏らした。

「ねぇ、イヴ様」

 胸への責め苦を中断し、悪魔は笑いながら少女に囁きかける。

「俺は、イヴ様のペットなんですよ」

 ズンッと一際強くイヴの秘所を肉棒で刺激しながら、自分をペットだと皮下した蛇は、恍惚とした笑みを浮かべていた。

「ご主人様の命令がないと何も出来ない、そんな憐れな存在なんですよ」

 言いながら、レボルトの口の端はどんどん上がっていく。

「イヴ様は、俺にどうして欲しいんですか?」

「ど、ぁ、う……っ……あ、って……!」

「イヴ様、憐れな蛇に、どうか慈悲をくれませんか」

 首筋にキスを落とし、蛇は嗤う。
 それは到底ペット、等という可愛らしい微笑ではなく、今にもその肉を食い破らんとする猛獣のそれだった。

「じ、ひ……、んぁ」

 何度も表面を虚しく滑るだけのそれに、虚しい喘ぎを何度も何度も漏らす。

「ずる、んっ、い……!」

「ずるい? それこそ、今更でしょう? 狡い男を好きになったんです。大人しく諦めてください」

「おう、ぼう」

「あなたがそれを言うんですか?」

「……うるさい、ばか」

「……それで?」

 笑い混じりに、レボルトはイヴの顔に掛かっていた髪をそっと払いのけた。

「俺にどうして欲しいんですか?」

 思わず見上げてしまった先の黄金の瞳は、一直線にイヴを射抜いている。
 その瞳の奥に潜むドロドロとした愛情と欲を、隠す事なくイヴに注ぎ込む。
 それを心地よい、と感じる事が出来るのも、狂気の沙汰としか思えない。
 それでも、とイヴはレボルトに手を伸ばす。

「……ほし、い」

 ぎらぎらと、レボルトの瞳が輝きを増す。
 レボルトの首に腕を回し、イヴはただ求めた。

「わ、たし、は、レ、ボル、ト、が――!? あ、あ、ぁぁぁあ!!」

 言い切らないうちに、イヴの中を男のそれが勢いよく押し開いていった。ゆっくりと、だが容赦なく奥へ奥へと進んでいく。
 体を内側から食い破られるかのような強烈な痛みに、イヴの喉からは意味のない音がこぼれ出た。

「ひっ……うぁ……! いっ……たぁ……! あ、あぁっ……ん!」

 ぶちぶち、みちみちと、身体を内側から引き裂かれていく。
 涙目になり、ふしゅーと荒い息を漏らしながら目を必死に瞑り、イヴは自身の上に覆い被さっているレボルトの身体に縋るように抱き着いた。

「……ああ、やっと」

 耳元で、そんな囁きが聞こえたような気がした。
 今まさに獲物の魂を得ようとする、感極まった地獄の悪魔の愛の囁き。
 秘所から流れ出る純潔の証をうっとりと見つめ、深いため息を吐きながら、レボルトは主人の中を執拗に犯していく。
 恍惚の表情を浮かべながら、じっくり、ねっとりと。

「そ、んな、ぁ、みな、いで、よ」

 心底嬉しいと言わんばかりに緩みきった笑みを浮かべるレボルトを直視できず、イヴは咄嗟に視線を逸らす。

「どうして?」

 それくらい察しろ。
 いや、分かっていて言っているのだろう。
 相手はレボルトだ。人が嫌がる顔を見て楽しいとのたうつような男なのだ。
 珍しく甘やかすような態度を取ってくるせいで、少々失念していた。
 顔を赤らめ瞼をわざとらしく強く瞑ったイヴに、頭上のレボルトは喉を震わせ、陰湿な笑い声を漏らす。
 閉ざされた瞼に宥めるようにして口づけを落とすレボルトは、相も変わらず笑みを絶やさない。ああ、これは絶対に楽しんでいる。

「痛みは?」

 ゆっくりとした律動を繰り返しながら、レボルトは問う。

「ん、……ちょっと、だけ」

 全く痛みがないのかと言われると、首を横に振らざるをえない。
 だが、どちらかといえば心地よい。
 激しい痛みもなければ、奪われるような快感でもなく、波打ち際を揺蕩っているかのように、心地の良いまどろみ。
 執拗なまでに丁寧に奥へと怒張を差し込まれるたび、レボルトの口から色気混じりの吐息が漏れ出るたび、他でもないレボルトに欲されているのだと嬉しくなる。
 
「そうですか」

 その旨を正直に打ち明ければ、目を細めながら、触れるだけの口付けを落とされる。
 その情景に、一瞬別の誰かが写り込んだような気がしして、イヴはほんの少しばかり動きを止めた。
 夢から急激に起こされたような感覚に、喉元からひゅっと変な声が漏れ出た。
 何かを、誰かを、思い出しそうな気がする。
 確かに前にもこんなことが、レボルトではない誰かと、こんなことがあったような。
 そんなはずはない。だって、私には何も、レボルトだけしかいないのに。
 ――本当に、そうだった?

「一体、何を考えているんですか?」

「えっ!? ふぁ!? ん、んぁぁあぁあっ!?」

 あからさまに不機嫌な低音が、イヴの耳を犯した。
 それまでの緩慢とした動作が嘘のように、イヴの腰をがっちりと掴み、レボルトは激しく律動を始める。
 明確にイヴを攻め立てる目的の上に行われる責め苦に、イヴはただ嵐が過ぎ去るのを待つことしかできない。
 眼前の男にすがり、あられもない声を上げながら、ただされるがままに揺さぶられる。
 肉棒にがつがつと最奥を貫かれるたび、イヴの背筋を快楽が駆け上がっていった。

「イヴ様には、俺だけがいればいいんでしょう? 他でもないあなたが、っ、それを望んだんだ……っ」

「まっ、あっ、ぁっ、あっ、あっ……!! ちょっ、ん、と、まっ……!」

「あなたには、もう何もない。 ただの人間の小娘に堕ちたあなたには、もう何も……っ!!」

 レボルトが何に対して猛っているのか、理解できなかった。
 イヴができることなど、ただレボルトの身にすがりつき、襲い来る快楽の波から必死に逃れようと荒い息を吐くだけだ。
 文字通り全てを奪い尽くされるような、激しい情交。
 ぐじゅぐじゅと激しく愛液を掻き乱されるあられもない音が、イヴの羞恥を一層煽っていた。
 
「まっ、て、れぼりゅ、んっ……! いぁ……ぅっ!」

「待ち、ません……っ」

「ほ、とに……! ら、め、りゃって、ん……っ!」

 押し込まれては、引き抜かれ、またしても奥深く埋め込める。ずっとその繰り返しだ。激しい動作に頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。

「あっ、あっ、あっ、あっ」

 単調な喘ぎ声を漏らし、ただ無心でイヴはレボルトに縋った。
 それに応えるようにして、レボルトはイヴの中を無遠慮に抉っていく。
 突き上げられるたび、頭がおかしくなりそうだった。

「イヴ、様。……イヴ、様」

「ひっ……! うっ……!」

 イヴの首筋を舐めあげながら、レボルトは囁く。
 律動を決して緩めることはなく、イヴの身を蝕んでいくことに一切のためらいはない。むしろイヴが声を上げるたびに、抽送は早まっていく。

「へん、に、っ、ふぁあ!? へん、にっ、ぁ、なりゅっ……かりゃ!」

「おかしく、なってしまえばいい」

 荒い息を吐きながら、レボルトはイヴの耳に囁き掛けた。
 耳たぶを舐め上げ、そのままつぷりと奥えと埋め込まれた舌に、ちかちかと瞼の裏に白い光がちらつきだす。

「もっと、壊れてください。……あなたに心底溺れている、この憐れな下僕のために」

「ふぇ!? あっ、あぁあああぁああぁぁ!?」

 耳を犯しながらの睦言に、びくびくと全身を顫動させイヴが達したと同時に、膣内を暖かな感触が上書きしていく。並々と注がれた白濁に、身体を内側から書き換えられていく生々しい感触。
 背筋を逸らし、なお一層己に縋る主人に、従僕はほの暗い笑みを浮かべていた。

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